« 飛べるじゃん! | トップページ | 私をまだ愛していますか(四の三) »

2007年10月13日 (土)

私をまだ愛していますか(最終回)

砕けた骨壺
 係員の声に誘導され、かまどの前に会葬者が集まったのは、間もなくしてからだった。後方に付いた柳澤が骨を拾い骨壺に入れる頃には、おおかた片付けられていた。河合夫人は骨壺の脇に立ち、時折目頭を拭いじっと耐えながら、全員が終了するのを静かに待っていた。
 やがて、骨壺と共に最初の斎場に戻った。参列者の中には所用で中途退場した人もいて、空席が目立った。一通りお経が終わると、僧侶が参列者に向き直って、戒名の意義や、辛くて思い切り泣いた後は、故人を偲びつつも、死者をしっかり忘れてあげることこそ供養なのです。そうすることによってこそ、死者は幸せになるのです。そして遺された人達は、それぞれの人生をしっかり生き抜いて戴きたい、等の説教があり、最後に、河合夫人が会葬者へ丁寧にお礼をに述べた。その後、親戚や知人などが会葬者に挨拶したりして、込み合っていたことも有って、柳澤は遠くから手を合わせ、深々と頭を下げ、会場を去った。
 会場を後にするなり、周辺に悟られないように小走りに坂を下り、急いでかまどに取って返した。額からは大粒の汗が流れ、Yシャツの背がぐっしょり濡れていた。間に合えばいいが、そう念じながらかまどに行ったが、既に骨上げが終了した直後だった。その時だった。ギャッと叫び声が起き、ガシャンと鈍い音がした。骨壺が床に落ち、破片と焼骨が飛び散った。女性は抱えていた花束を卓上に投げるようにして置くなり拾い始めた。係員は会場をから消えたかと思う間もなく、新しい骨壺を抱えて息せき切って戻ってきた。もう一人の係員と女性とで焼骨だけを拾い集めた。柳澤は「私もお手伝いします。」と大声で言うなり、骨壺の破片と焼骨を分け、急いで新しい骨壺に収骨した。箸だけでなく、手でも拾い集めた。何としても早急にこの場を収拾しなければならないのだ。骨はザラザラしてどれも大きさの割には異様に軽かったし、暖かった。大きな骨だけ納めた後は、細かな骨類を係員が手箒で集め、別の容器にどんどん入れていった。
 短時間で終わった。女性は新しい骨壺と野位牌をしっかり左脇に抱え、右手に花束を持ってその場をどっと後にした。女性はチラッと柳澤を見やり、目を伏せながらそのまま素通りして行った。柳澤は、箒の目が新しく床に残っているのを見た。この時、床の隅に白い物が目に付いた。小指半分ほどの二つの焼骨だった。ズボンのポケットからハンカチをわざと落とし、拾う振りして素早くハンカチにくるみポケットにしまった。
  
逢いたい       
  四十九日までの中陰も過ぎ、忌も明けた。初七日も四十九日も内輪で法要を済ませたらしく、あえて柳澤に案内も無かったが、それはそれで良いのだと思った。
 数ヶ月後、柳澤は愛好者達とカメラ撮影会に出かけた。初夏の日差しも眩しく、撮影にはもってこいのカメラ日和だった。ガーデン内の洋食レストランで軽く昼食を撮り、残りの花壇の撮影に掛かったとき、携帯が鳴った。
 「健太郎さん?」「裕恵です。」「あっ!裕恵さん!」懐かしい声だった。「私たち逢えない理由なんてもうないわよね。今どこ?」「三ッ山光輝ガーデンです。これから3時間で行けます。」「いやっ!。待つだけなんてもういやっ!永いことずーと待っていたのよ。私も参ります。」柳澤はカメラを片手に駐車場へ飛んで走った。「おおーいっ、三脚忘れてるぞ!」友人の声は、今の柳澤には何も聞こえなかった。
 「今、雲見山インターです。健太郎さん、私をまだ愛していますか」
 

|

« 飛べるじゃん! | トップページ | 私をまだ愛していますか(四の三) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 私をまだ愛していますか(最終回):

« 飛べるじゃん! | トップページ | 私をまだ愛していますか(四の三) »