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2006年12月11日 (月)

クリーニング屋、猿男そして子供

 スーパーの地下にあるカフェテリアに腰を下ろした。正面に、マクドナルド、隣にクリーニング店がある。チーズバーガー2個とスーパーで買ったPボトルのお茶で、軽い昼食をとった。周囲の椅子にはおばさんが一人、おじさんが一人、それにチョット身なりの良くない蒼い顔した青年が、それぞれチーズバーガー、野菜バーガー2個とコーラを食べている。これ2個で200円だ。「おんなじだな」と思った。

 男の老人が、クリーニング屋のカウンターにゆっくり近づくのが見えた。握りしめた紙片を中年の女性店員に静かに渡した。店員は紙片を見ながら奥へ消えたかと思う間もなく、ビニール袋を持って素早く現れた。男は、ビニールをむしり取るように破るなりYシャツを取り出し、おもむろにカウンター上に広げた。そして、コート、ジャケットを脱ぎ、長袖とベスト姿になった。次いでズボンのベルトを外した。

 Yシャツを着込み、ボウタイを首に巻き付け、ズボンに押し込めベルトを直し始めた。その時だ。2~3歳ぐらいの男の子が歩み寄ると、男のズボンを握り、仰ぐように見上げた。男は驚いた様子もなく見下ろした。猿のような赤い斑点をした顔だった。二人はじっと見つめ合っていた。時間が張り付いたように、男も子供も動かなかった。「としちゃん。行くわよ。」お母さんの声に振り返り、とことこ歩み去っていった。

 男はジャケットとコートを着直すと、襟元を直しながらなにやら店員に、照れ笑いしながら一言二言話しかけた。店員は、男のコートの襟に触れ笑顔を作りながら、良くお似合いですよ、離れていたが確かにそう言ったように見えた。男は満足した様子で、バッグを背負うと、大股で急いで歩き去っていった。

 隣には、いつの間にか女学生達が集まり、笑ったり、おしゃべりしたり、携帯をかけたり、ざわめいて賑やかだった。

 突然、ドサッという音がした。音の方に目をやると、クリーニング屋の店員が倒れたのだ。椅子をけって急いで駆け寄り、助け起こした。真っ青な顔。右手を挙げ、人差し指を力無く伸ばしながら何やら指さしている。その先に目をやると、カフェテリアの角にさっきの男が振り返って立っていた。ニタッと両頬をつり上げ歯をむき出し、真っ赤な顔で険しい目つきをしていた。猿だ。やっぱり猿だった。猿は踵を返すなりサッと逃げていった。

 その顔を見た店員は、怖ろしさのあまり卒倒したのだ。店員を人に預け、猿の後を追った。猿はエスカレーターを2~3段ピョイピョイ跳びはねながら、音もなく逆上して逃げていく。階下には猿が履いていた革靴が、ちりぢりに転がった。親は子供を抱え、女達の悲鳴が響き店内は騒然となった。やっと一階に駆け上がり、駐車場に出たが、すでに猿の姿はそこに無かった。

 辺りを見ると、バッグとコートが落ちていた。更にジャケットもベストも。ベルトが蛇のように長く横たわり、そしてズボンが、連なって落ちている。それを辿っていくとスーパーの裏手の森へと向かっていた。遺留品を集めたが、なぜかYシャツが何処にも見つからなかった。 

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